城と温泉と私

 かねてから、出かけた先にお城があれば立ち寄ってしまうプチお城好きで、現存12天守閣など有名どころのお城には旅の都度登城していた。そして、ふと徳島に旅に出た2018年に、その存在はかねてから知っていたが、手を出さないと決めていた「日本100名城」スタンプラリーに、つい出来心で手を出してしまった。
 思えば、四国お遍路巡りも2008年に徳島に旅行に行った際、軽い気持ちで一番霊場に行ったことが始まりだった。「いつも始まりは徳島」ということらしい(笑)。そして、一度こういうものに手を出すと、すべてコンプリートしなくては気が済まない性格。兎にも角にも、3年前から禁断の日本百名城巡りを始めてしまった。手を出した以上、ここからは楽しむしかない。そして旅にも城にも温泉はつきものである!?
 2020年8月の時点で、スタンプ済なのは25カ所。なるべく多くの城を巡りたいと思っていたが、このコロナ禍のなか、予定がキャンセルになることだらけでなかなか思い通りにいかず、なんとかこの1年に巡ることのできた九城と、そんなお城のお供に巡った七湯の温泉を紹介。

二六城目 :二本松城(福島)

 二本松城は別名、霞ヶ城ともいい、室町時代より同じ場所で存続した東北では稀有な城跡。戊辰戦争において二本松少年隊の悲話を残して落城。そんな二本松城のお供の湯は、
・あづま温泉(福島)
標高約五○○メートルにある露天風呂からは、福島市中心部が広がる景色が最高にきれい。一○○パーセント源泉掛け流しで、重曹泉の醍醐味トロトロ感が感じられた。しかし、残念ながら現在は立ち入り禁止になっており廃業したようだ。

二七〜二九城目:松江城(島根)・月山富田城(島根)・
岩国城(山口)

 松江城は現存一二天守の一つで、2015年にお城として五つ目の国宝に認定された。月山富田城は難攻不落の城として、戦国時代屈指の要害とされている。悲運の武将・主家への忠義を貫いた山中鹿介の銅像や、供養塔や随所に残る石垣や石畳の古道が往時の面影を伝える。岩国城は、初代岩国領主・吉川広家によって造られた標高約200メートルにある山城。眼下に流れる錦川が天然の外堀となっていた。そんな三城のお供の湯は、
・小屋原温泉 熊谷旅館(島根)
 言わずと知れた名湯で、三瓶山の北西山麓にポツリとある。人肌ほどの極上のぬる湯は泡付きがあり、血行がよくなるからか、とても体が温まる温泉。湯船から床にかけての析出物も趣があり。
・千原温泉 千原湯谷湯治場(島根)
足元からぷくぷくと湧くこの湯は、茶褐色でぬるめの極上湯。かつては療養目的以外では入れない本格的な湯治湯だった。熊谷旅館でも一緒になった、見ず知らずの女性と浴場の壁越しに温泉談義に花を咲かせ、楽しいひと時に。

三〇城目:小田原城(神奈川)

 小田原城の築城は一五世紀中ごろと考えられており、戦国大名・小田原北条氏の居城となってから、次第に拡張整備され、豊臣秀吉の来攻に備えて城下を囲む総構を完成させる。城の規模は最大に達し、日本最大の中世城郭に発展した。そんな小田原城のお供は、
・姥子温泉 秀明館(神奈川)
 大正期の建物を残し湯治場の雰囲気が残る「秀明館」は、神秘的な浴場という言葉が思い浮かぶ。岩盤からコンコンと湧き出す湯は、天候(降雨量)によって湧出量も変化し、日によって顔を変える。ここは忙しい毎日を忘れ、ゆっくりと湯治気分を満喫するのが最高。

三一城目:山中城(静岡)

 山中城は戦国時代末期、小田原に本城をおいた後北条氏によって築城された。全国にも珍しい石を使わない土だけの山城で、堀や土塁など四○○年前の遺構がそのまま復元されている。そんな山中城のお供は、
・竹倉温泉 みなくち荘(静岡)
 古きよき昭和の雰囲気にホッとできる癒しの湯。鉄分が含まれた赤茶色の湯は、冷鉱泉のため加温して浴槽に注がれており、血液の循環をよくし、体の芯からじわじわと温まる。いつまでも汗が止まらない。

三二城目:水戸城(茨城)

 水戸城は、那珂川と千波湖に挟まれた丘陵地に築かれた、日本最大級の土造りの城。大規模な土塁とともに、城の西側の台地には五重の堀、東の低地には三重の堀をめぐらし、堅固な防衛線を築いていた。本丸跡には現在、県立高校が建つ。そんな水戸城のお供は…、なんと諸事情で温泉に入ることができず残念無念。

三三〜三四城目:上田城(長野)・松代城(長野)

 上田城は真田幸村の父、真田昌幸によって築城され、第一次・第二次上田合戦で徳川軍を二度にわたり撃退した難攻不落の城として知られている。松代城は、江戸時代には松代藩主・真田家の居城で、その始まりは、戦国時代に築城された海津城。戦国時代から江戸時代初頭までは北信濃を支配するうえで、軍事的、政治的に重要な拠点となっていた。そんな上田城、松代城のお供は、
・戸倉観世温泉(長野)
 淡いエメラルドグリーンの湯からは硫化水素臭が際立ち、湯口から飲泉も可能。入浴料は三○○円と安く、自動販売機で購入した券を番台で渡す形式。昭和のよき時代を思い出す。
・松代温泉 松代荘(長野)
 広い湯船の大浴場でも毎分七四○リットルと豊富な湯量で鉄分を多く含む黄金色の湯が、贅沢にかけ流されている。宿泊者専用風呂もあり、極上の湯をゆっくりと堪能できる。
以上、旅のお供に最適なお城と温泉を巡る旅は、九城七湯を存分に楽しむことができた。そして来期もコロナウイルスの収束を心から願いつつ、一○○城完全制覇を目指し、城と湯を楽しんでいきたい。ご当地の食も安心して堪能できる未来を気長に待ちながら、ゆっくりと巡っていこうと思うのであった。。


温泉達人会 会報2021 vol.15掲載の「城と温泉と私(鹿野義治)」を再録
※情報は会報掲載当時のものです。


二本松城


あずま温泉(※2020年12月閉館)


松江城


岩国城


小屋原温泉熊谷旅館


小田原城


姥子温泉秀明館 ※許可を得て撮影


水戸城

上田城


松代温泉 松代荘